弓にやさしい麻弦・経済性の合成弦

麻弦は植物製品、合成弦は化学繊維にて作られ、両製品は似て非なるものと考えるべきであります。異質のものとの認識で使用しない限り、高い確率で弓の破損を招きます。長所、短所を理解し対策を耕じた上でのご御使用が最も肝要です。
麻弦は離れの振動を柔らげ、先手にも弓にも柔らかく優しく伝えますが、合成弦にはこの能力はないため、弓は、過酷な負担を担うことになります。
特にカラ筈は、先手に荒い反動と振動をモロに伝えるため、弓は反転しがちになります。その点、麻弦(弓力に適した太さの弦)は万一、反転しても衝撃で切れ、多くはことなきを得ます。
合成弦の長所、短所を理解し上手に対応されれば故障は確実に減せます。
合成弦の強靭さは、大きな長所でありますが、笄や首折れを招く直接の原因となることをご理解のうえご使用いただきたいと存じます。

カラ筈(矢が中関から外れた状態で放たれること)の防止策

巻き藁矢、組矢、全ての矢の筈溝を平ヤスリにて同じにし、丸ヤスリで奥行きを「深め」かつ「奥だけ広め」になるように加工します。キツサの程度は中関に掛けた矢をぶら下げ、やや強めに揺らしても落ちない程度、「弓」、「」など新調したり、射技に不安のある場合はもっとキツメが無難かと思います。
首折れの殆どは「カラ筈」で起こりますから、このような簡単な作業で確実に防げます。
合成弦をお使いになる以上、高段者、熟練の方でも万一に備えることは是非必要です。
絶対にあってはならない、しかも、防げる「失」であります。是非、実行して頂きます様お願い申し上げます。
緊張しがちな競技会、審査などでの大変恥ずかしく、周りにも迷惑をかける、取り返しのつかない大失態を、簡単な加工で未然に確実に防ぐことにもなります。
また、角筈は湿気に非常に敏感です。乾くと開き、湿るとキツクなりますから中関の調節も必要で、天候にも気配りは必要です。

合成弦特有の「笄」(外竹がはじける事)

麻弦使用が一般的であった時代は、「会」での矢束の取りすぎ、先手の強い上押し、強い捻り、勝手の荒い離れなど、射技上の共通点があり、「笄」を起こす方は特別な方との概念がありましたが、昨今は合成弦のご使用が一般的になり、本当の麻弦をご存じない方さえ大変多くなりました。合成弦は、麻弦に比べ「離れ」の振動が数倍強いため、その衝撃の積み重ねにより起こるため、極端に言いますとどなたにも「笄」の起こる可能性はあると考えて対応して頂く必要があります。
「離れ」の衝撃を軽減する対策が笄を防ぐ大事なポイントにもなります。
矢束に対して長めの弓、弓力に対して重めの矢の使用は基本であり大変重要です。
矢束90センチまでは並寸、100センチまでは二寸伸、の伝聞は「にべ弓」「麻弦」の時代のこと、今は通用いたしません。合成弦のご使用では、先手が中押しで手の内の柔らかい方でも並寸、85センチ、二寸伸90センチまでが限度かと思われます。強弓になるほど、「離れ」の衝撃は増大し、弓力が増すごとに弓は累進的に強い負担を負うことになり、「笄」は発生し易くなります。衝撃のダメージを確実に積み重ねていると考えるべきで、ある日突然、芯部まで害が及び修理不可能な事態になる恐れも大いにあります。それだけに85センチ前後の矢束の方でも二寸伸を、90センチ前後の矢束の方でも四寸伸の使用が適切な場合も多々あります。過去に「笄」の経験のある方、ファイバー弓を長く使用された方、左利きの方など「笄」を起こしやすいタイプとの認識をお持ち頂かねばなりません。最近、極端に細い弦を見かけます。細い弦は「離れ」での弓の振幅が大きくなると思われ、「笄」誘発の原因になろうかと危惧いたしております。
竹弓は「弦が切れると生きかえる」から、時には故意にハサミを入れるとの伝聞を聴きますが、効果の真偽のほどは置くとして、合成弦は弓の疲弊を確実に進めていますから行射中の弦切れは極力避けるべきで、出来れば三百射も引いたら新しい弦に替えるのが弓のためにも良く、張ったままでの故意の切断など絶対いけないこととご留意頂きたいと存じます。合成弦は切れないうちに新しくするのが大事です。
「会」までは、外竹は伸びる負担、内竹は縮む負担を受け、そして「離れ」で振動の負担を受けます。弦が切れたら、内竹を引き伸ばす力が働きますから、内竹切れを起こし、籐、握り皮で隠れた箇所だと、芯まで破損が及ぶまで使い続け、気がついたときには手遅れ、修理不可能な状態にもなりかねません。また、合成弦を使用した「笄」の多くは「離れ」の衝撃で起きますから、各行射間のこまめな点検を習慣づけることが大事かと思います。「笄」の発見が遅れ、使い続けると芯にまで及び修理できないおことになります。 合成弦は竹弓との相性まで考えて開発された製品ではなく、切れないこと、つまり経済性を最重要視して開発された製品です。

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