合成弦の長所と短所

Q5.合成弦を使っていますが、麻弦と比べて何が違うのでしょう?

 弦と言えば、以前は麻を素材とした麻弦のことを指していました。しかし今日では、化繊素材の合成弦が主流となっています。弦というのは切れるのが当たり前だったわけですが、合成弦が登場したことで「弦は切れないもの」との危険な感覚さえ芽生え始めており、その強靭すぎる特性ゆえに弓に大きな負担をかけ、故障を招いているのが事実です。
 麻弦を知らない弓士も多いのは残念なことでありますが、麻弦には和弓と共に歩いてきた長い歴史があり、弓の弦としての適性は言うまでもないほど優れております。麻弦は、耳に心地良い冴えた弦子を響かせ、弓の性能を極限まで発揮させます。加えて弓の負担を和らげる独特の特性で、笄(こうがい)や首折れ等の故障を極力抑えてくれます。
 一方、合成弦は「丈夫さ」を第一義に開発されたものであり、弓がそれによって受ける大きな負荷を考慮して作られてはいません。だからといって、合成弦そのものを否定するのではなく、必要不可欠な用具ゆえに長所を活用し、欠点を補う工夫をしたうえで使用していただくことが重要かと思います。麻弦と合成弦の特性の違いを認識しないで、麻弦と同じ感覚で合成弦を使用していれば、ある日突然弓の破損や支障を招くことは必至であります。
 弓が最も負担を受けるのは、会→離れ→弓返りの過程であり、特に離れから矢を送り出しつつ弓返りに至る時の、瞬間的な衝撃は非常に大きなものであります。この衝撃を和らげるのが、矢の重量と箆張り(のばり:矢のしなり)の強さであり、射枝面の先手の中押しの柔らかい手の内、左右均等の離れであります。そして、かつては全ての人が使用されていた麻弦が、弓の負担を軽減する大変大きな役目を果たしていたことを知っていただきたいのです。
 右肩後方まで大きく引いて放つ日本弓道独特の行射を考えるとき、前記のどの一つが欠けても笄や反転による首折れを起す可能性はありますので、工夫や配慮が必要です。弓力に応じた太さの麻弦を使用すれば、空筈を引いて弓が反転したとしても、弦が瞬間的に切れ、衝撃を吸収する働きをするため首折れに至る可能性は非常に少ないです。
 合成弦の場合は、離れの衝撃で笄を起こす可能性が高く、また反転の衝撃では切れないため、その負担が弓にかかり、1回の反転で首折れの破損に至ることも不思議ではありません。
 首折れは修理不可能ですから、たとえ1回の反転であっても、損傷は必ず起こっているものと考えるべきで、専門的な点検が必要です。
 1000射引いても切れないのが合成弦ですが、この強さを弓士が求める限り、和弓に適した合成弦の開発は不可能と考えます。弦が長持ちする分、弓の負担は大きく消耗も激しいことを理解して下さい。麻弦の場合、200~300射引ければ優秀な弦と言うべきであり、満足すべきであります。合成弦も同じ程度の強度の製品開発が望ましく、弓にも先手の手の内にも優しい和弓用の弦ができることを願っております。
 優秀な弓具は使用される弓士の意識の改革から生まれると思います。いつか弓に優しい合成弦が開発された時、理解ある賢明な支持が最も大切ではないかと思っております。優秀な麻弦の供給がままならない現状を考え、合成弦の特性を理解し、弓の負担を軽減するための工夫を凝らし、上手に使っていただくことが最善の策と考えます。

Copyright(c) 2012 Nagano-Issui All Rights Reserved.